絵本を作る_絵描からみた チームで作り上げる作業過程
絵描き、早川純子からの視点で、絵本ができるまで過程をまとめてみました。
私は版画を作りながら、絵本を作ることに携わっています。
自分の作品として作り出す版画作品と、絵本の出来上がる過程は違います。
版画作品は、自分で作りたいものを個人的な作業の中で作ることが強いです。
絵本は、出版社、編集者、絵描、作家、デザイナー。
また内容ができたら、今度は印刷会社や製本会社などの手が入り、絵本の形が出来上がります。
個人で作り上げるのではく、チームで作り上げる側面が強いです。
そして、絵本一冊一冊。
作る過程が絵本ごとに違います。それも楽しいところです。
そんなことを、先日授業で、お話しする機会を持てました。
自分のメモ、また整理用に。
また、実際の授業では、順序だってあまり話せませんでした。
改めて話を聞いた学生さんが、後日内容を見返せるように、ざっくりとブログにまとめてみました。
絵本によって、絵柄を版画にしたり、絵の具にしたり。サラッと描いたり。
自分ではそんなに変えているつもりは、ありません。が、
絵本の内容で絵柄が変わっていく様子などを文章化できたらと思います。
この記事の全体の流れ
個人的の絵本と、商業的な絵本。
チームで作る絵本
作絵の絵本と、挿絵の絵本の違い。
1)作絵の絵本の場合
_自分の普段の作品から、絵本の題材を膨らませていく場合。
例「まよなかさん」(ゴブリン書房)、「不眠症」(パロル舎)など
_テーマを提示されて、自分でお話を作っていく場合。
「はやくちこぶた」「おおかみのはなし」(瑞雲舎)「家缶」(ほるぷ出版)など
2)挿絵の絵本の場合
編集者から依頼を受け、ふだん興味をもっていなかったもの。
ほとんど知らなかったものを絵本の形に仕上げていく作業。
作品の内容に、自分をチューニングしていく。
_編集者とのやりとり
_原作者とのやりとり
_取材
_原画を描く過程で。デザイナーとのやりとりのあと、印刷、製本へ
例「こんとごん」(福音館書店)「スマントリとスコスロノ」(福音館書店)、「ナマハゲ」(汐文社)など
個人的な絵本と、商業的な絵本
今回紹介する絵本は、商業的な絵本ができるまでの説明をしています。
*個人的に楽しむために作る手作りの絵本。
*始めから売ることを目的にした、商業的な絵本。
大きく分けて、二つがありますが、今回授業で話した絵本ができるまでの例は、商業的な絵本を取り上げています。
もちろん、個人的に作った絵本も、後で売ることになったり、商業的な絵本に発展することもあります。
また始めから、個人的に販売することを目的に、作ることも多いかと思います。
1)自分でお話を作って、絵を描く絵本の話/早川の場合
自分の普段の作品から、絵本に膨らませていったもの。
最初に、「まよなかさん」「不眠症」など、普段作っていた版画作品から、絵本の形になった絵本を紹介します。
普段の作品のモチーフから生まれた絵本「まよなかさん」
「まよなかさん」は、最初の作絵の絵本です。
お話を作って、絵を自分で描いた絵本でした。
この絵本をつくる前に、同じ編集者さんとの仕事で、小説の挿絵の仕事をしました。
この時の挿絵は、木口木版で挿絵を作りました。
→「トリツカレ男」(いしいしんじ著/ビリケン出版/新潮文庫より)
挿絵の仕事は、編集者さんが、版画の個展に来てくれたのが、きっかけでした。
個展で作品の絵柄を見てくれて、それから挿絵のお話をいただいたのです。
この挿絵の仕事は、一年くらいゆっくりと時間をかけて、絵柄を考えたり、版画を作りました。
装丁の挿絵の仕事としては、とっても贅沢な作業時間です。
その挿絵の仕事をする中で、個展がまたあって、その時に、今までの作品ファイルとは別に、
イラストの仕事のファイルも、個展会場に置いていました。
そのイラストファイルを見た編集者さんが、「早川さんって、絵の具の絵もかけるんだねえ。」と、気づいてくれたのです。
それが、最初の絵本の仕事に繋がりました。
最初の絵本は、内田麟太郎さんがお話を書かれた、「しんじなくてもいいけれど」(文/内田麟太郎 ビリケン出版)という絵本です。
その最初の絵本ができた後、編集者さんが独立して出版社を立ち上げました。
そこから今度は作絵の絵本として、「まよなかさん」(ゴブリン書房)の絵本がうまれました。
木口木版の画集をつくろう!から、うまれた絵本「不眠症」
「不眠症」の絵本は、最初版画集の形で、話が進みました。
上に書いた、「トリツカレ男」の挿絵の木口木版を見た、編集者さんが、木口木版での本を作りましょうと言ってくれました。
ちょうど個展があり、不眠症シリーズの版画を数点作っていたのかな。たしか。
このシリーズを15点作り、すこし文章をつけて絵本の形にしたものが、「不眠症」です。
絵本の見開きが15見開きあり、右ぺージに木口木版の版画。
左ページに小さいカットイラストを入れて、全体を整えています。
パロル舎は、多色印刷が得意の出版社だったため、この絵本も特色4色で作っています。
一部、色ごとに版を分けて、版画をつくった部分があります。
最初、自分でデザインができると思い、版下を作ったものの、版ズレがあったり。
また各ページに入れる、画像の大きさの調整。
また文字の位置などは、自分ではデザインすることができませんでした。
そのため、出版社の社内のデザイナーさんが、デザインをしてくれ、印刷できる形に仕上げてくれました。
(パソコンで版下を作っていく作業)
印刷会社さんにもお世話になった作品の一つです。
テーマを提示されて、自分でお話を作っていった絵本。
次は同じく、自分でお話を作って、絵を描いた絵本。
でも、かっちりした絵本のテーマを提示されて、お話を作っていった絵本を紹介します。
私の絵本では、「はやくちこぶた」「家缶」などがそうです。
<はやくちことば>から、生まれた絵本「はやくちこぶた」
「はやくちこぶた」は、『早口言葉で、絵本を作ってください』と、出版社から依頼で、できた絵本です。
編集者から連絡が来て、最初の打ち合わせの時に、有名な早口言葉のリストを手渡されました。
「なまむぎ なまごめ なまたまご」
「となりのきゃくは よくかきくうきゃくだ」など。
よく使う早口言葉をつかって、どうやって絵本の形にしようか?と悩みながら話を作りました。
制作過程の話と、編集者さんとの対談記事が、絵本ナビさんの記事で読むことできます。
→絵本ナビ
「続編を作ろう!」から、生まれた絵本。
それから、13年後。「はやくちこぶた」の続編絵本ができました。
「はやくちこぶた」の続編を作りましょう!」と、はっきりとした目的があり、できた絵本です。
当初、同じく言葉遊びの内容で、できないかと、話を進めていました。が、
途中から、ストーリー仕立ての絵本にしようと、内容を変更しました。
読み聞かせをして、楽しめる形へと、編集者さんと何度もラフを直して、作り上げた絵本です。
打ち合わせの時に、声を出して読むことを前提にして、作っていきました。
最初、オオカミが人形劇団で、歯が折れてしまい、劇ができない!どうしよう??という話や、
もっと言葉遊びな内容が詰まっていたりと、少し話が複雑な内容でした。
それを、「お話はシンプルに。シンプルに」と、編集者さんが引き締めていってくれました。
出来上がると、どっちも追いかけっこの絵本になった。
「はやくちこぶた」では、三匹のこぶたとオオカミの昔話を下じきしています。
早口言葉だけで、画面構成をしています。
3びきのこぶたが、オオカミに追いかけられるお話になっています。
「おおかみのはなし」では、逆にオオカミが、三匹のこぶたに追いかけられるお話。
タイトルの「おおかみの はなし」は、オオカミの歯が、転んで折れてしまう内容です。
歯がない→歯なし→はなし
という感じで、言葉遊び的な題名をつけました。
ちょうどコロナの時期だったので、、編集者との打ち合わせも、オンラインで進める形をとりました。
また<アマビエ> <マスク>など、この時期ならではの絵柄も入りました。
ペーパークラフトがあったから、できた絵本。「家缶」
「家缶」も、企画があって、できた絵本の一つです。
この絵本はシリーズもので、巻末にペーパークラフトがついています。
絵本に出てくる<家>を 巻末のペーパークラフトで実際に作って遊べる企画でした。
私は缶そっくりな家に住んでいる、ヒックリーとカエルーの二人の暮らしを描きました。
缶に偽装して住んでいるので、コロコロころがったり。スーパーに並べられちゃったりと。
苦労しつつも、楽しい生活を描いています。
巻末のペーパークラフトでは、実際の缶の大きさに合わせた、おうちを作ることができました。
この絵本は、巻末のペーパークラフトを設計する、ペーパークラフト作家の、坂啓典さんが加わっています。
お話の初期のかなり初期の段階で、絵本に出てくる家が、ペーパークラフトでできるように、坂啓典さんも加わり、進めています。
ペーパークラフトができる!という視点があったから、できたお話でした。
2)お話に絵をつける、挿絵の絵本の場合
文章が既にできていて、編集者(出版社)から依頼を受けて、絵本を作っていく形をご紹介します。
このタイプの絵本では、版画で絵を描いた、「スマントリとスコスロノ」(福音館書店)「なまはげ」(汐文社)
絵の具で描いた絵本では、「こんとごん」(福音館書店)を取り上げます。
最初からお話があるものに、絵を描いて絵本の形にする作業は、作絵が自分の絵本とは、また違った面白さがあります。
今まで自分では興味がなかったものや、よく知らなかったものを描くことになるからです。
作品の内容に、自分絵柄をどう描いたら、より作品世界をうまく表現できるのかなあと、チューニングしていく作業も毎回悩みますが、楽しみの一つです。
最初から、「版画で描いてください。」とか、「絵の具で描いてください。」など
指定されることの方が多いですが、編集者さんとやりとりをしながら、どんな絵柄が一番しっくりするか試作を作りながら、決めていく絵本もありました。
また逆に、ある程度まで描いているうちに、違和感がでてきたりして、ガラッと描き方を変えた絵本もありました。
デザイナーさんとのやり取りで、ガラッと変わった絵本「こんとごん」
「こんとごん」(織田道代/文 福音館書店)は、<かがくのとも>という、月刊雑誌の絵本です。
2017年3月(2016年度3月号)に、刊行されました。
絵本の原画を書き終わったのが前年2016年の秋でした。
月刊絵本は、前年度の春頃に、一年間のラインナップを決めます。
そのため、それまでに絵本のラフや、内容があらかた決まった段階まで、できています。
ピンチヒッターで参加
「こんとごん」の挿絵の依頼を受けたのは、2016年の頭ごろでした。
編集者さんとは、以前、原画展でお会いしたことがありました。
お話を書かれた、織田道代さんとも、以前、言葉遊びの絵本で、ご一緒しました。
その時に、お会いしました。
今回「こんとごん」の絵を描かれる予定だった方が、亡くなられ、そのピンチヒッターとして、私に話が来たのでした。
その方の名前が書かれた、絵本のテキストを手に取って、ほんとに私に描けるだろうか?と
「うわ〜〜」と、震えがきたのを覚えています。
編集者とのやりとり/デザイナーさんとのやりとり
今回は言葉遊びの絵本で、文字フォントも、重要な絵柄の一部でした。
そのため、デザイナーさん(コズフィッシュ)も、途中から参加する形になりました。
編集者さんと、いつ頃相談にいくか、当初から話に出ていました。
結局、ある程度、原画が仕上がってから、デザイナーさんに見ていただく形になりました。
下の2枚の原画は、デザイナーさんに持ってった原画。
(実際には、簡単に文字を入れて出力して、本の形に閉じたものを見てもらっています。)
最初の案では、こんとごんは、中心からそれぞれ反対方向に向かって進んでいく。という、形にしています。
ひっくりかえって、どんどん変わった。
文字を入れたものを、見ていただいたところ、デザイナーさんがその場でさらさら〜と、ラフを描かれたのです。
二人の方向が一緒で、もっとシンプルな方が、読者がわかりやすいよ〜と。
これがまた本当にそうだったので、その場で衝撃を受けました。
その後、編集者さんともう一度話し合い、ラフをもう一度考え直すことにしました。
文字の縦組み、横組。
こんとごんが右からいくか。左からいどうするか。
数パターンのラフを作り直したり。
それからデザイナーさんのところに改めてラフを出し、細かくすり合わせていきました。
その後、原画を改めて描く作業に入りました。
また、文の織田道代さんも、最後まで文章の微調整をされていました。
ギリギリで、ぐるっと変化して作ったのは、面白い体験でした。
絵柄もどんどん変わり、新しいこんとごんに生まれ変わりました。
この絵本は、2022年に書籍の本としても、生まれ変わりました。
この時も、同じデザイナーさん(コズフィッシュ)が、新しくデザインしてくれました。
絵は同じですが、表紙や、文字のフォント、文字組などが、微妙に変化してます。
両方手に取って、見比べると楽しいですよ。
下の画像は、月刊誌の「こんとごん」。
上の原画と同じ場面です。
それぞれの違いを見比べると、面白いかも。
最初から木口木版で描いてと、指定された絵本「スマントリとスコスロノ」
「スマントリとスコスロノ」は、最初から木口木版で作って欲しいと依頼がありました。
担当の編集者さんは、私が大学卒業ごろからの版画を見てくれていた方でした。
またお話を書かれた、乾千恵さんも私の木口木版の作風を 雑誌「母の友」(福音館書店)での挿絵で、知っていました。
私としては、木口木版での作業が大変だし、お金もかかるし。
スクラッチや切り絵など、他の描き方で、できたらなあと思っていました。(材料費は出ないのです。)
このお話の本は、インドネシアの伝統芸能の人形芝居ワヤンでよく演じられるお話の一つです。
絵本の監修の松本亮さんは、この人形芝居のお話が、どんなお話なのか、長い間、日本に紹介してきた方でした。
その松本亮さんがワヤンで演じられている内容を日本語にまとめた本を読んだ、乾千恵さんが、この「スマントリとスコスロノ」の物語に惚れ込み、絵本の形にまとめたものです。
文章が私の元に来るまでも、10年近く乾さんが、編集者とやりとりしながら、温めていたものでした。
絵を描くことになり、人形芝居ワヤンのことを 私はほとんど知らなかったので、編集者と共に、松本亮さんのお宅に伺って、色々人形を見せていただいたり、話を聞きにいきました。
このときの夏に、松本さん主宰している、日本ワヤン協会が、現地に公演旅行に行かれるのを知りました。
編集者さんとこれは、一度実際に同行して、見に行った方がいいかもねえと、話ながら帰りました。
絵本の絵は、実際のワヤン人形に似せる必要はありません。
「こんとごん」のような、ゆる〜い感じの絵でもいいし。
絵の具で描いたものでも、いいものができたでしょう。
でも、松本亮さんのところで色々ワヤン人形をみてしまったのです。
編集者との現地への自腹取材旅行。
結局、人形芝居のワヤンを 現地でしっかり見ることができませんでした。
ただ、松本亮さんのさんの公演旅行について行ったことで、舞踊や、ガムランの音楽。
木の人形劇(ワヤン・ゴレ)。人間が演じるワヤンの芝居(オラン・ワヤン)。
動物の人形劇(ワヤン・カンチル)
また現地の雰囲気や、ワヤン人形を作っている工房の様子など。
一週間ほどの旅でしたが、見聞きすることができました。
ラフと試作をもって、デザイナーさんのところに。
取材から、数年経ち日本でもワヤンの公演を何度か見る機会がありました。
旅行で出会った方から、いただいたワヤンの音楽テープを借り何度も聞いたり。
なんとなく、ストンとかける感じになりました。
そのころラフも、ようやくまとまり、木口木版や、スクラッチの試作をもって、デザイナーさん(白石デザイン・オフィス)のところに、編集者さんと打ち合わせに行きました。
試作を見たデザイナーさんは、編集者さんと同じく、「版画がいいねえ〜」と即答。
やっぱりか〜と、版画で作業することに、踏ん切りがつきました。
ラフを元に、改めてデザイナーさんが、大体の文章の配置をして、それを元に必要な木口木版の版画。
背景の版画などを作り始めました。
主な人物の木口木版ができた頃、それをデザイナーさんのところに持っていきながら、組み合わせてもらい
また足りないパーツ。背景を作り持っていく。
そんな作業を最後の方続けました。
絵本の絵柄ができていくのと同時に、文の乾千恵さんも文章の推敲を最後までされていました。
文の乾千恵さんとは、編集者が、やりとりをしています。
原画できて、デザインができて、入稿
原画できてから、文字組み、デザインができ、印刷会社に入稿。
それから、試し刷りがでてきて、何度か、刷り直しを行い、絵本の形に出来上がります。
(絵本によっては、印刷工場にいって、色の出方を見に立ち会うこともあります。
場所が遠方の場合、編集者だけが見にいくこともあります。)
著者が現地を案内してくれた絵本「なまはげ」
「なまはげ」(汐文社)では、著者の池田さんの案内で、なまはげの地。
男鹿を取材で回りました。
ナマハゲの由来はたくさんあります。
そのなかから、「古代中国の漢の武帝が、五ひきの鬼をつれてきた」という伝説を元に書かれています。
秋田県生まれの池田まき子さんが、お話をまとめられました。
この絵本は、版画でということで、始めから進めています。
お話を読んで、やはり現地に行けたらなあと思っていたら、池田さんが案内してくれることに。
ありがたいなあ〜と、雪が降る前に秋田。深夜バスで男鹿に向かいました。
池田さんとご友人が車で、なまはげの由来の神社。男鹿の名所などまわり、なまはげ館にも行きました。
なまはげは、東京に住んでいると、赤と青の面のイメージが強いです。
が、実際には、その地域ごとに、面の形。表現が変わっているそうです。
そこを表紙でどう表現したらいいのか。と、最後までぐるぐるしながら版画を彫りました。
- 全体のまとめ。
後日、追加で加筆予定です。
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